はじめに:いま銀行株で何が起きているのか
2025年の日本株市場で、ひときわ存在感を増しているのが銀行株です。
特に三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306、以下MUFG)は、
- 2025年3月末時点の時価総額は約24.3兆円
- その後、株価上昇が続き、足元では30兆円台に乗せて日本企業の中でトヨタに次ぐ規模に迫っている
というポジションまで浮上してきました。
背景にあるのは、30年ぶりと言っていい「金利ある世界」への回帰です。
- マイナス金利政策の終了
- 追加利上げによる金利正常化
- 「貯蓄から投資へ」を後押しする新NISA・資産所得倍増プラン
こうしたメガトレンドが重なり、銀行ビジネスの前提そのものが大きく変わりつつあります。
この記事では、
- 「金利ある世界」で銀行の収益構造がどう変わるのか
- MUFGの足元の業績と株主還元はどれくらい強いのか
- 三井住友FG・みずほFGと比べて、MUFGはどこが優れているのか
- 「時価総額40兆円」シナリオを、数字ベースでどう考えるか
- 個人投資家は、銀行株とどう付き合えばいいのか
を、個人投資家向けに整理していきます。
YouTube解説動画はこちら:
1. 「金利ある世界」で銀行ビジネスはどう変わる?

1-1. 金利ゼロ時代と今との決定的な違い
銀行の本業は、ざっくり言えば
「安くお金を集めて(預金)、高く貸して(融資)、その差額=利ざやで稼ぐ」
というビジネスです。
ところが、ゼロ金利・マイナス金利のもとでは、
- 貸出金利は競争でどんどん下がる
- 預金金利はそもそもほぼゼロで、もう下げようがない
という状態になり、利ざや(NIM:Net Interest Margin)は薄くなる一方でした。
2024〜2025年にかけて日銀がマイナス金利を終え、政策金利を0.25%、0.5%と引き上げたことで、この構図がようやく逆回転し始めます。
1-2. 「貸出金利はすぐ上がる、預金金利はゆっくり」の構造

ここで効いてくるのが、「預金金利の粘着性」と呼ばれる特徴です。
- 企業向け融資や住宅ローンの多くは「変動金利」
→ 政策金利が上がると、比較的早く貸出金利に転嫁される - 一方、普通預金の金利は、銀行側がそう簡単には上げない
→ 預金者は0.001%が0.02%になっても、あまり気づかない/動かない
結果として、
「貸出金利の上昇スピード > 預金金利の上昇スピード」
となり、利ざやがグッと改善しやすい環境になります。
2025年以降、メガバンクの決算で資金利益(利息収入)が増えているのは、この構造が効いてきているからです。
2. MUFGの足元の業績と株主還元

2-1. 中間期で純利益1.3兆円、通期目標の6割超
MUFGの2026年3月期・第2四半期(中間期)決算では、
- 中間純利益:約1兆2,900億円(前年同期比+2.8%)
- 通期純利益予想:2兆1,000億円
- 進捗率:すでに6割超
という数字が出ています。
ポイントは、この利益が
- 金利上昇による貸出金利息の増加
- 投信・証券など、資産運用ビジネスの手数料収入の増加
といった「本業の積み上げ」で出ている、ということです。
総資産は約404兆円、自己資本比率も5%台に乗っており、財務の安定性(分厚い自己資本)もしっかり確保されています。
2-2. 配当と自社株買いの“ダブル還元”
MUFGは、
- 年間配当を前期64円 → 今期74円へ増配予定
- 配当性向40%超を目安に、累進配当(減配しない方針)を掲げる
- さらに、1.3億株・2,500億円を上限とする自社株買いを発表
と、株主還元をかなり重視するスタンスを明確にしています。
配当+自社株買いは、
- インカム(配当収入)
- 1株あたり利益・ROEの押し上げによる株価の下支え
の両方に効いてくるため、中長期投資家にとっては魅力的なポイントです。
3. 三井住友・みずほと比べて、MUFGはどうなのか
3-1. 3メガバンクの「規模」と「収益性」を並べてみる
2025年3月末時点の時価総額と、2025年3月期のROEを並べると、3メガバンクの輪郭がはっきり見えてきます。
【画像挿入:3メガバンクの時価総額&ROE棒グラフ】
時価総額(2025年3月末の概算)
- 三菱UFJ:約24.3兆円
- 三井住友FG:約14.7兆円
- みずほFG:約14.0兆円
ROE(2025年3月期)
- 三菱UFJ:9.08%
- 三井住友FG:8.02%
- みずほFG:8.57%

これを見ると、
- 規模(時価総額・総資産)はMUFGが頭ひとつ抜けている
- 収益性(ROE)は3行とも8〜9%台で、MUFGがわずかにリード
という構図が分かります。
3-2. MUFGならではの強み:モルガン・スタンレー提携
MUFGは、米モルガン・スタンレーと資本提携しており、
- 日本国内でのM&A助言、株式・社債の引受
- 日本企業の海外進出サポート
- 海外投資家の日本株投資のハブ
といった分野で、他のメガバンクにはないグローバルネットワークを持っています。
これは単なる「持分法利益が入る」という話だけでなく、
「グローバル金融の最前線のノウハウを取り込みつつ、国内外でビジネスを拡大できるポジション」
を意味しており、長期的な競争力の源泉になっています。
4. 三菱UFJは「時価総額40兆円」へ行けるのか?
足元の株価水準や直近の時価総額を30兆円クラスと仮定すると、
40兆円に到達するには、株価ベースでおおよそ+3〜4割の上昇が必要になります。
これを、「何が起きればあり得るのか」という観点で分解してみます。
4-1. ドライバー①:ROE向上とPBRの再評価
MUFGのバリュエーションをざっくり整理すると、
- 現状:ROE 8〜9% × PER 13倍 → PBR 1.2〜1.3倍程度
- 目標イメージ:ROE 10%超を安定して達成 → PBR 1.6〜1.8倍へ
というイメージです。
ROEが2ケタで安定してくると、
- 「資本コストをきちんと上回っている」
- 「銀行でもちゃんと稼げる時代になった」
と評価され、PBRが切り上がる(リエーティング)余地が出てきます。
4-2. ドライバー②:政策保有株の売却=“埋蔵金”の解放
MUFGは、まだ数兆円規模の「政策保有株式(持ち合い株)」を抱えています。
これを売却していくことで、
- 低収益な資産を現金化
- その資金を自社株買いや成長投資に回す
- 株価変動リスクも減り、BPSのブレも小さくなる
というプラス効果が出ます。
言い換えると、
「バランスシートに眠っている埋蔵金を、株主のためのキャッシュに変えていくプロセス」
であり、これが進むほどROE向上&株主還元の原資が増えていきます。
4-3. ドライバー③:グローバル成長と新規ビジネス
- 東南アジア(タイのアユタヤ銀行、インドネシアのバンクダナモン)でのリテール・中小企業向け融資
- AI・DXを使った業務効率化と与信精度の向上
- GX(グリーン・トランスフォーメーション)関連の「移行金融」需要の取り込み
など、既存の貸出業務だけに頼らない成長ドライバーも育ちつつあります。
これらが積み上がってくると、「日本の銀行」というより、「グローバル金融グループ」としての評価が強まり、PBR・PERの上振れ余地も広がります。

5. 見逃せないリスク:金利・不良債権・地政学
強気シナリオだけでなく、リスク要因も冷静に押さえておきましょう。
5-1. 債券ポートフォリオの含み損
金利が上がると、手持ちの国債や社債の価格は下がります。
日銀の国債保有に大きな含み損が出ているというニュースが象徴的ですが、民間銀行も大量の日本国債・外国債券を持っており、金利上昇局面では「評価損」が膨らみます。
MUFGの場合、
- 満期まで保有する債券は、時価評価の影響を受けにくい
- 金利スワップなどでヘッジもしている
といった対策は取られていますが、「急激な金利上昇」が来た場合のテールリスク(起きる確率は低いが、起きたら大きいリスク)は意識しておくべきです。
5-2. 不良債権・与信費用の増加
- コロナ禍でのゼロゼロ融資返済が本格化 → 中小企業の破綻増加リスク
- 米国の商業用不動産(オフィスビル)市場の低迷 → 海外エクスポージャーの焦げ付きリスク
など、景気悪化局面では与信費用(貸倒引当金)が膨らみ、利益を圧迫します。
5-3. 地政学・サイバーリスク
台湾有事、中東情勢の悪化、金融インフラへのサイバー攻撃など、「予測しづらいがインパクトの大きいリスク」も存在します。
個人投資家としては、こうしたリスクを完全に避けることはできないので、
銀行株に集中しすぎない
他セクターや海外株、債券・現金と組み合わせて、ポートフォリオ全体でリスクを和らげる
という発想が重要です。
6. 個人投資家はどう戦略を立てるべきか
6-1. 長期投資の基本スタンス
MUFGのような大型銀行株は、
- 「短期の値幅取り」より
- 「金利正常化と収益成長を、じっくり何年もかけて享受する銘柄」
として見る方が相性がいいです。
そのための具体的な手段として、
- 一括投資ではなく、毎月・毎四半期の定額積立(ドルコスト平均法)
- 日銀会合や米雇用統計後の乱高下局面での「押し目買い」
といった形で、タイミングリスクを分散していくのが現実的です。
6-2. ポートフォリオの中での「適正比率」
例として、リスク許容度「中」くらいの個人投資家なら、
- 国内株式全体:20〜30%
その中の銀行株(MUFG+他メガバンなど):5〜10%程度 - 先進国株式(オールカントリー・S&P500など):40〜50%
- 債券・現金:20〜30%
といったバランスが一つの目安になります。

銀行株は、
- 金利上昇局面で強い「景気敏感株」
- 高配当銘柄としての「インカム株」
の両方の性格を持っています。
半導体などの成長株・ディフェンシブ株と組み合わせて、「どんな相場環境でも致命傷を避ける」ポートフォリオを意識したいところです。
6-3. ETF(1615)という選択肢
「個別銘柄はちょっと怖い」「決算を全部追うのはしんどい」という人は、
- 1615:NEXT FUNDS 東証銀行業株価指数連動型上場投信
のような銀行セクターETFを使うのも選択肢です。
- MUFG・三井住友FG・みずほFG・ゆうちょ・地銀などにまとめて分散投資
- 信託報酬も低コスト
なので、「とりあえず銀行セクターを丸ごと持つ」手段として使えます。
おわりに:MUFGは“最初に検討すべき日本株”のひとつ
「金利ある世界」への回帰、ガバナンス改革、「貯蓄から投資へ」の流れ——。
こうした構造変化の中心にいるのが銀行セクターであり、その中核がMUFGです。
- PBR1倍割れからの脱却
- ROE改善と累進配当・自社株買いによる株主還元
- グローバルネットワークと新しい成長分野
を考えると、MUFGは
「日本株で長期投資を始めるとき、最初に検討する候補」
として十分に値する銘柄だと言えます。
もちろん、金利・景気・地政学などのリスクはゼロではありません。
だからこそ、ポートフォリオ全体のバランスを意識しながら、
- 短期のノイズに振り回されない
- でも決算や金利動向のポイントはきちんと押さえる
という「賢明なる投資家」としてのスタンスが問われます。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
投資判断はご自身の責任と判断で行ってください。


