株式市場では昔から「選挙は買い」という言い回しがあります。選挙が近づくと株価が上がりやすい、選挙後に上がりやすい、といった経験則(アノマリー:理屈よりも統計的な偏りで語られる傾向)です。
ただし、ここで注意点が2つあります。
- 「いつからいつまで」をどう区切るかで、結論が変わりやすい
- 選挙より強い要因(金利・為替・景気・政策ヘッドライン)があると、簡単に上書きされる
この記事では、米国(大統領任期サイクル/中間選挙)と日本(衆議院の解散総選挙)を分けて、「どんな傾向が観察されやすいか」「どこで崩れやすいか」を整理します。
YouTube解説:
まず定義:「選挙は買い」はどの期間の話?
同じ「選挙は買い」でも、よく混ざりがちな期間があります。
- 日本:「解散→投開票日まで」に株価が堅調、という語られ方が多い
- 米国:「任期サイクル(4年)」や「中間選挙の年の動き」に偏りがある、という語られ方が多い
なぜそうなりやすいと言われるのか、代表的な説明は次の2つです。
- 不確実性の解消(結果が出ると不透明感が薄れ、買い戻しやすい)
- 政治的景気循環(選挙を意識して景気刺激策が出やすい、という見方)
ただし、これは“説明として筋が通る”という話であって、毎回同じように動く保証はありません。ここからはデータで「偏りが見えやすい場所」と「危ない落とし穴」を見ていきます。
米国編:大統領任期サイクルと「中間選挙年」の扱い方
大統領任期4年サイクル:年次平均リターンの偏り
米国株(S&P500)は、4年サイクルで「年ごとに平均リターンが偏る」という整理がよく紹介されます。代表的な集計イメージは次の通りです(配当込み・なし、期間の取り方で数値は変わります)。
| 任期年次 | 呼ばれ方 | 平均リターン(目安) | 上昇確率(勝率・目安) | 背景として語られがちな要因 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 選挙翌年 | +6.7% | 58% | 新政権の初動・期待 |
| 2年目 | 中間選挙年 | +4.2% | 52% | 不確実性が増えやすい |
| 3年目 | 選挙前年 | +16.1% | 89% | 景気刺激が意識されやすい |
| 4年目 | 選挙年 | +7.1% | 71% | 後半に不透明感が薄れやすい |
ポイントは「2年目が弱い“ことが多い”」というより、勝率がほぼ五分で、年内の値動きが荒れやすいという見方が現実的なところです。
「2年目のジンクス」は“方向”より“ボラティリティ”に注意
中間選挙年は、株価が必ず下がるというより、不確実性がピークになりやすく、年内の下落局面(ドローダウン:途中の最大下落幅)が大きくなりやすい、という整理が役立ちます。
過去の例としては、インフレや金融政策、貿易摩擦といった「選挙より強いテーマ」が前面に出た年に、大きく崩れるケースがありました。
- 2018年:貿易戦争や利上げ局面で年末に急落
- 2022年:インフレ加速と急速な利上げで大幅調整
つまり、米国の選挙要因は「株価を上げるスイッチ」というより、市場が振れやすくなる“条件の一つ”として扱う方が、事故が減ります。
日本編:衆議院解散総選挙は「タイミング」がアノマリーを強めやすい
日本の特徴:解散は首相の裁量が大きい
日本の「選挙は買い」が語られるとき、よく対象になるのは「解散→投開票日まで」です。ここが米国と違う最大のポイントで、解散は政治日程と支持率、景気、政策の都合で選ばれやすい傾向があります。
その結果、そもそも相場環境が悪すぎない局面で解散が選ばれやすく、統計上は「選挙まで上がりやすい」ように見えやすくなります。
過去の主な解散局面:解散→投開票日までの騰落率(例)
1990年以降の主な解散総選挙で、解散から投開票日までの株価変化がプラスになった例が並ぶことがあります(起点・終点の定義で結果が変わる点は要注意です)。
| 投開票日 | 解散の通称(通称はメディア表現) | 日経平均(解散→投開票) | TOPIX(解散→投開票) | 当時の語られ方(例) |
|---|---|---|---|---|
| 2005/09/11 | 郵政解散 | +12.5% | +11.8% | 改革期待・海外勢の買い |
| 2009/08/30 | 政権交代選挙 | +4.8% | +3.9% | 政権交代期待 |
| 2012/12/16 | 近いうち解散 | +10.2% | +9.5% | 政策転換期待 |
| 2014/12/14 | アベノミクス解散 | +2.1% | +1.8% | 増税延期など |
| 2017/10/22 | 国難突破解散 | +9.5% | +8.4% | 安定政権期待 |
| 2021/10/31 | 未来選択解散 | +1.2% | +0.8% | 政策への評価が割れた |
| 2024/10/27 | 日本創生解散 | +3.5% | +2.9% | 政治評価と株価が一致しない例 |
この並びだけ見ると「やっぱり選挙は買い」と言いたくなりますが、ここにも落とし穴があります。
- サンプル数が多くない(特に“最近”だけで語ると偏りやすい)
- 「投開票後」を混ぜると別の顔になる(材料出尽くしで反転することもある)
- 政治の勝敗と株価が一致しないことがある(短期では需給が支配する局面がある)
日経平均とTOPIXは動きが違う:どこに資金が向かうか
選挙局面では、指数の性格の違いが出やすいことがあります。
- 日経平均:先物主導・値がさ株の影響が大きい(短期資金が入りやすい)
- TOPIX:銘柄分散が広い(内需や金融も含む)
そのため、「選挙で上がる」と言われても、実際には先物主導で日経平均が先に動き、現物やTOPIXが追いつかないといった形になることもあります。こういう局面は、期待が剥がれるときの反動も速くなりがちです。
過去に強かったセクターと、注目されやすいテーマ
選挙局面で物色されやすいとされる代表例は次の通りです(必ず上がるという意味ではありません)。
- 建設・土木:公共投資への期待
- 広告・印刷:選挙関連需要(ポスター、広告など)
- 小売・サービス:消費刺激策への期待
- 証券:株高・売買活性化への期待
一方、近年は「国策テーマ」が前面に出ると、従来の“選挙関連”より強く資金を引き寄せることがあります。具体的には、経済安全保障、半導体・AI、エネルギー政策、防衛などです。
2026年にアノマリーが崩れやすい3つの上書き要因
「選挙は買い」が機能しやすい局面でも、次の要因が強いと簡単に流れが変わります。
① 米国株の調整が日本株を引っ張る(連動性の上昇)
日本株が独自材料で上がりそうに見えても、米国株が大きく崩れる局面では、海外投資家のリスクオフが優先されやすくなります。
② 円高が逆風になる(為替の影響)
急な円高は輸出企業の業績見通しを押し下げやすく、指数(特に日経平均)の上昇期待を相殺しやすい点に注意が必要です。
③ ヘッドライン反転(否定・延期・想定外)
解散・選挙日程の見通しが揺れたり、政策方針の発言がぶれたりすると、短期資金が一斉に引くことがあります。期待で上がった相場ほど、反転は速くなります。
実務で使うなら「チェックリスト」で事故を減らす
アノマリーは“前提”にすると危険です。使うなら、次の確認をセットにするのが現実的です。
- 政治日程:解散は「観測」か「決定」か(織り込み度が変わります)
- 需給:先物主導で飛んでいないか/現物に広がっているか(出来高や値上がり銘柄数)
- マクロ:ドル円、米金利、米株が追い風か向かい風か
- 上書き要因:金融政策・インフレ指標・関税/規制などの政策ヘッドライン
特に「選挙まで上がった=勝ち」ではありません。どこで利確(利益確定)し、どこで撤退(損切り)するかを先に決めておく方が、アノマリーより重要です。
まとめ:「選挙は買い」は万能ではなく、条件付きの傾向
日米ともに、選挙を含む政治イベントの前後で、特定期間に偏りが観察されることはあります。ただし、再現性は期間定義と市場環境に大きく依存します。
結局のところ、「選挙要因」は相場を動かす要因の一つに過ぎません。金利・為替・景気・政策といった上位要因が逆向きなら、アノマリーは簡単に崩れます。
“選挙は買い”を合言葉にするより、「いつからいつまで」「何が上書きになり得るか」を点検する──この姿勢が、2026年のように材料が多い年ほど効いてきます。
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買や投資成果を保証するものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。


