※本記事は2025年12月初旬時点の相場環境をもとに執筆しています。
ビットコイン(BTC)は一時12万4,000ドル近辺まで買われたあと、いまは8万9,000ドル前後までじりじりと調整しつつ、上にも下にも大きく振れながら落ち着きどころを探しています。
価格だけ見ていると「いつ暴落してもおかしくない」「今から飛び乗っても大丈夫なのか」と不安になりがちな局面です。
一方で、KLabの「デュアル・ゴールド・トレジャリー戦略」や、MicroStrategyに代表される「ビットコイン・スタンダード」のように、企業がビットコインを本格的に財務戦略へ組み込む動きも加速しています。
この記事では、
- なぜ89,000ドル付近が「薄い出来高ゾーン」で危ういのか
- デリバティブ市場(先物・レバレッジ)で何が起きているのか
- KLabとMicroStrategy、対照的な2つの企業戦略から個人投資家が何を学べるか
- 今後のシナリオ別に、どういうスタンスを取りうるのか
といった点を整理していきます。
※投資判断は必ずご自身の責任と判断で行ってください。ここで触れるのは考え方の一例です。
1. いまビットコイン市場で起きていること
まず押さえておきたいのは、「89,000ドル付近は“値段のわりに取引の蓄積が少ないエリア”になっている」という点です。

マーケットを「時間軸のチャート」ではなく、「価格帯ごとにどれだけ売買があったか(価格帯別出来高=ボリュームプロファイル)」で見ると、
- 80,000〜81,000ドル付近:
過去に多くの売買が集中した「高出来高帯(HVN)」で、厚めのサポート候補 - 86,000〜89,000ドル付近:
上昇が一気に通過した「薄い出来高ゾーン(LVN)」で、売り買いどちらの“受け止め役”も少ない - 92,000〜93,000ドル付近:
短期勢の利益確定売りが集まりやすい「供給の壁(レジスタンス)」候補
という構造になっていると解釈できます。
取引の蓄積が薄いゾーンでは、大口の売り・買いが入った時に価格が「ズルッ」と滑りやすく、数千ドル単位の乱高下が起きやすくなります。
個人投資家から見ると「ボラが異常に高い」と感じる局面ですが、市場構造的には「摩擦の少ない空中戦エリア」にいる、というイメージです。
2. デリバティブ市場が発する警告シグナル
短期的な値動きは、現物(スポット)の売買だけでなく、先物・レバレッジ取引などデリバティブ市場のポジション状況に大きく左右されます。
2-1. Active OI(未決済建玉)の積み上がり
Active OI(オープン・インタレスト)は、「まだ決済されていない先物・オプションの枚数」です。
ここが高水準のまま、価格が横ばい〜じり安で推移している場合、
- ロングもショートもレバレッジを使ってポジションを積み上げている
- どちらかに大きく動いた瞬間、強制ロスカット(清算)がドミノ的に発生しうる
という“ガソリンが溜まった状態”になっている可能性があります。

直近のビットコインでは、
- 価格はここ数週間はじりじりと調整気味
- 未決済建玉(OI)は、12万4000ドルを付けた局面でピークを打ったあと、そこからはゆっくりと減少傾向
- ファンディングレート(ロング・ショート間の金利)は極端には偏っていない
という、「レバレッジの積み上がりはピークアウトしつつも、まだまだガス抜きしきったわけではない」状態と見ることができます。
2-2. 清算ヒートマップと「価格の磁場」
清算ヒートマップは、「どの価格帯にロスカット・強制清算ラインが溜まっているか」を可視化したものです。
アルゴリズム取引が主役になった現在のマーケットでは、価格は流動性が多い場所(=注文が溜まっている価格帯)に引き寄せられやすいと考えられています。
イメージとしては、
- 85,000ドル割れ付近:
ロング勢のロスカットが多い「下方向の磁場」 - 93,000ドル超え付近:
ショート勢のストップ買い戻しが多い「上方向の磁場」
になっており、どちらかを明確に抜けると、
- 下なら「フラッシュクラッシュ的な一気押し」
- 上なら「ショートスクイーズを巻き込んだ急騰」
が起きるリスクを抱えている、という見方ができます。
3. 企業財務のパラダイムシフト
― KLabとMicroStrategy、2つの戦略
こうしたボラティリティの高い相場環境の中で、上場企業がビットコインをどう扱おうとしているかは、長期的な需給を考える上で無視できません。
象徴的なのが、日本のKLabと、米国のMicroStrategyです。
3-1. KLab「デュアル・ゴールド・トレジャリー戦略」
KLabは、ビットコイン(デジタルゴールド)と金(リアルゴールド)を組み合わせた「デュアル・ゴールド・トレジャリー戦略」を公表しました。
ポイントをざっくり整理すると、
- 日本円だけを大量に持つことを「サイレント・クラッシュ(インフレによる実質目減り)」とみなし、
円の価値下落リスクをヘッジしたい - 発行上限のあるBTCと、伝統的な価値保存手段の金を組み合わせ、
通貨や一国の政策に依存しない“無国籍資産”でバランスシートを守る - BTCと金の比率を一定に保つようリバランスすることで、
価格変動(ボラティリティ)そのものをリターン源泉に変えていく
という考え方です。
ここで出てくるのが「シャノンの悪魔(Shannon’s Ratchet)」という発想です。
ざっくり言うと、
- 価格が上がった資産を一部売って、相対的に安くなった資産を買い足す
- これを機械的に繰り返すことで、“上下のブレ”を利用して総資産をじわじわ増やす
というリバランス戦略のことです。
ビットコインのようにボラが大きい資産は、普通の投資家にとっては「怖い値動き」ですが、
KLabのようにリバランス前提で持つプレイヤーにとっては“稼ぎどころ”にもなりうる、というのが面白い点です。
3-2. MicroStrategy「ビットコイン・スタンダード」
一方のMicroStrategyは、ほぼフルベットに近い「ビットコイン・スタンダード」を続けています。
- 企業価値の中核をBTCで構成
- 借入(社債など)も活用しながら、ひたすら買い増し
- 「4年以上の投資期間を前提に、ボラティリティに耐える」というスタンス
で、いわば「レバレッジを効かせたガチホ戦略」です。
「10億ドル分のBTCを売ったのでは?」といった噂も出ましたが、
実際にはカストディ変更に伴うウォレット移動で、市場売却ではなかったとされており、
現時点では一貫して“売らない”姿勢を崩していません。

3-3. 2つの戦略から個人投資家が学べること
両社の特徴をざっくり対比すると、次のようなイメージになります。
| 項目 | KLab(デュアル・ゴールド) | MicroStrategy(BTCスタンダード) |
|---|---|---|
| 目的 | 資産保全+ボラ活用 | 資産最大化+ドル債務の実質圧縮 |
| 保有資産 | BTC+金 | ほぼBTC一本 |
| 手法 | リバランス(シャノンの悪魔型) | レバレッジを使ったガチホ |
| 強み | 暴騰・暴落どちらでも“そこそこ”機能 | 上昇相場での爆発力 |
| 弱み | 超絶バブル局面では上昇余地を削る | 暴落時のダメージが極端に大きい |
個人投資家がそのままMicroStrategy型を真似すると、
資金管理を誤った瞬間にゲームオーバーになりかねません。
一方で、KLab型の「ボラティリティを前提に、複数資産でリバランスする」考え方は、
- BTC+金
- BTC+現金
- BTC+インデックス(株式)
といった形で応用しやすく、
「全部BTCか、ゼロか」ではない中間解として参考になる部分が多い戦略と言えます。
4. マクロ環境:トランプ相場と円安、規制のゆくえ
ビットコインは直近で一時12万4000ドル近辺まで買われたあと、足元では8万9,000ドル前後までじりじりと調整しています。短期的には「高値からの戻り売りが出ている局面」ですが、長いスパンで見れば依然として歴史的に高い水準にあることも事実です。こうした高値圏でのもみ合いの背景には、マクロ環境や政策期待が複雑に絡んでいます。
4-1. トランプ勝利と「暗号資産フレンドリー」期待
米大統領選でトランプ氏が勝利したことで、
- 規制当局による「締め付け一辺倒」からの転換が起こるのではないかという期待
- ビットコインや暗号資産を国家戦略レベルでどう位置付けるか、という議論の活発化
が意識されるようになりました。
「国家レベルでBTCを準備資産として保有する」といった構想も、まだアイデア段階ではあるものの、強気派の心理的な支えとして意識されています。こうした期待が、12万4000ドル近辺までの上昇相場の一因となり、その後の調整局面でも「完全には売り切れない」背景のひとつになっています。
4-2. 円安と“円ショート+無国籍資産ロング”
日本の投資家にとっては、慢性的な円安傾向と超低金利環境が続いていることも重要な前提です。
- 低金利の円で資金調達し、
- リターンが期待できるドル建て資産(米国株やBTCなど)を保有する
という「円キャリー」的な発想は、個人・法人を問わず、以前よりも現実的な選択肢として意識されつつあります。
KLabが開示資料の中で、円建て負債を背景にBTCを保有する戦略を
「価値が目減りしやすい通貨(円)をショートし、価値保存能力の高い資産(BTC)をロングする構図」
として整理しているのも、その一例です。
ビットコイン価格が12万4000ドルから調整している局面であっても、こうしたマクロ環境を踏まえると、「円だけを持ち続けるよりも、一定割合を無国籍資産に振り向ける」という発想は、今後もしばらく意識され続けると考えられます。
5. 今後の3つのシナリオと、それぞれの向き合い方

ここまでの構造を踏まえると、短期〜中期で主に想定しやすいパターンは、
ざっくり次の3つです(確率はあくまでイメージです)。
シナリオA:パラボリック・ブレイクアウト(上方向)
- 92,000ドル前後のレジスタンスを、出来高を伴って上抜け
- 93,000ドルを超えたあたりからショートカバー(買い戻し)が加速
- 真空地帯を駆け上がり、95,000〜100,000ドルをトライする展開
この場合に乗るのであれば、
- 「93,000ドル終値で明確なブレイクを確認してから」など、
追いかけるにしても条件を決めておく - いきなり全力ではなく、押し目待ちや分割エントリーを徹底する
といったルールがないと、天井掴みになりやすいゾーンです。
シナリオB:レンジ相場での“シャノンの悪魔ゾーン”
- 85,000〜92,000ドルの間で、急騰・急落を繰り返しながらの持ち合い
- 89,000ドル付近の“薄いゾーン”が、徐々に出来高で埋められ、新たな「合意価格帯」が形成されていく
このパターンでは、レバレッジ取引は「往復ビンタ」になりやすく、
- 現物+リバランス戦略のような、KLab型のアプローチが機能しやすい局面
- 「決めた比率から大きくズレたら戻す」ことを淡々と繰り返す
といったスタイルが、メンタル的にも現実的になってきます。
シナリオC:レバレッジ清算を伴うフラッシュ・ダウン
- 85,000ドル割れをきっかけにロング勢のロスカットが連鎖
- 一気に81,000ドル付近のHVN(高出来高帯)まで売り込まれる
- 場合によっては、さらに下のサポート候補(76,000ドル前後)を試す展開
こうした“ズドン”とした下落は、
- レバレッジ勢にとっては地獄
- 現物勢・これから買いたい人にとっては「流動性が出る買い場候補」
になりやすい側面があります。
もちろん、「どこが絶対の大底」かは誰にも分かりませんが、
事前に「この水準まで落ちたら少しずつ買い下がる」と決めておくかどうかで、
暴落局面のメンタルは大きく変わってきます。
6. まとめ:賢明なる投資家が意識したい3つのポイント
最後に、一時12万4,000ドルまで上昇したあと、現在8万9,000ドル前後の攻防となっている今だからこそ、押さえておきたいポイントを3つに絞ります。
1. 薄い出来高ゾーンでのレバレッジは“賭け”に近い
- 86,000〜89,000ドル付近は、サポートもレジスタンスも薄い空中戦エリア
- 短期レバレッジは、上か下かを当てるゲームになりがち
2. ボラティリティを前提にした“二階建て構造”を検討する
- BTC一本かゼロかではなく、金・現金・インデックスなどとの組み合わせでリバランスする考え方
- 「KLab型」の発想は、個人が真似しやすい現実的な中間解の一つ
3. 急落=構造崩壊とは限らないことを頭に入れておく
- OI(未決済建玉)のガス抜きや、清算ラッシュでの“産みの苦しみ”という側面もある
- 中長期で見れば、厚い出来高帯(80,000ドル前半など)での押し目は、
あとから振り返ると「合理的なエントリーポイント」になっていることも多い
価格だけを追いかけていると、どうしても感情で振り回されてしまいます。
「どの価格帯にどれだけの売買が溜まっているか」「どんなプレイヤーがどういう戦略で動いているか」をセットで見ることで、同じチャートでも見え方はかなり変わってきます。
賢明なる投資家としては、
- いま自分がどのシナリオを前提に動いているのか
- その前提が外れたときに、どこで撤退・どこで買い増しするのか
をあらかじめ言語化しておくことが、ボラティリティの高い相場を生き残るうえでの重要なポイントになってきます。


