AI関連はこれまでGPU(計算の心臓部)ばかりが注目されがちでしたが、2026年に入ってからは「データを貯める・運ぶ・守る」インフラ側にも視線が移っています。
特に目立つのがストレージ(SSD/HDD)関連の再評価です。ただし、ストレージだけを追いかけると“次の詰まり(ボトルネック)”を見落とすことがあります。この記事では、なぜストレージが注目されやすいのかを整理したうえで、次に詰まりやすい4領域(電力・冷却・メモリ・ネットワーク)を初心者向けに噛み砕いて解説します。
YouTube解説:
まず何が起きた? ストレージ株が注目された流れ(ざっくり時系列)
ストレージ周りのテーマが強まった背景には、事業再編やイベント発言、アナリストの見直しなどが重なった流れがあります。
- 2025年2月:フラッシュ/SSD側(SanDisk)とHDD側(Western Digital)が分社化し、事業の色が分かりやすくなりました。
- 2025年後半:AIデータセンターのデータ量増加を背景に、HDDの「大容量需要」も再注目されました(データレイク用途)。
- 2026年1月上旬:AIストレージ市場への期待を示唆する発言や、目標株価の引き上げなどが材料視され、テーマとして一段強まりました。
ここで大事なのは、「株価の動き」と「製品市況(NAND/DRAM価格)」は別物だという点です。短期ではテーマ物色(投資家の注目の集中)で動くこともありますし、中期では需給・設備投資・製品ミックスで差が出ます。
なぜAIでストレージが重要になるのか
AIの学習や運用は、計算(GPU)だけで完結しません。計算に必要なデータが間に合わなければ、どれだけ高性能なGPUを並べても止まってしまいます。
たとえ話で理解:GPU=工場、メモリ=作業机、ストレージ=倉庫
- GPU(コンピュート):計算する場所(工場)
- メモリ(HBM/DRAM):作業机(手元に置くデータ)
- ストレージ(SSD/HDD):倉庫(大量データを保管し、必要に応じて搬出)
工場(GPU)に材料(データ)が届かないと、生産ラインが止まります。これが「ストレージの壁」として語られる理由です。
ポイント1:チェックポインティングがI/Oを爆発させる
チェックポインティング(学習途中の状態保存)とは、学習中のモデルの状態を定期的に保存し、障害が起きても続きから再開できるようにする仕組みです。
モデルが巨大になるほど保存データは増えます。保存に時間がかかると、その間GPUが待ち状態になり、コスト効率が落ちます。
用語メモ:I/O(アイオー)は「読み書き」、レイテンシ(遅延)は「待ち時間」のことです。
ポイント2:データインジェッション(取り込み)と推論でも“速い倉庫”が必要になる
データインジェッション(大量データの取り込み)や、推論(実運用で答えを返す処理)でも高速な読み書きが効いてきます。
HDDは「ビット単価が安い(大量保管向き)」一方、SSDは「ランダムアクセスが速い(頻繁に読み書きする用途向き)」という役割分担になりやすいです。
用語メモ:NVMe(エヌブイエムイー)は高速SSDの接続規格の一つで、データセンター向けでもよく使われます。
次のボトルネック候補はこの4つ
AIインフラは「ある制約が緩むと、別の制約が表に出る」という性質があります。ストレージの話題が先行した次に、投資家が監視したい候補は大きく4つです。
1)電力・送電網(変圧器・受電・配電)
結論:GPUやサーバーが買えても、電気が引けなければ稼働できません。
データセンターは建設だけでなく「受電・変電・配電」までセットで考える必要があります。ここで詰まりやすいのが変圧器やスイッチギア(高電圧の開閉機器)です。
- なぜ詰まりやすい?重電設備は製造能力の立ち上げに時間がかかり、納期が長期化しやすいからです。
- 投資家のチェックポイント:主要企業の受注残、納期遅延の言及、データセンター建設の遅延ニュース、電力確保のための自家発・電源契約の動き。
- 見落としがちな反証:立地選定(電力が余る地域へ移す)、需要平準化、オンサイト電源(自前で発電・蓄電)で一部は回避可能です。
用語メモ:スイッチギアは「大電力を安全に切り替える設備」です。
2)熱管理・冷却(液冷シフト)
結論:計算密度が上がるほど、冷却がボトルネックになりやすいです。
GPU世代が進むほど消費電力が増え、ラック(サーバー棚)あたりの発熱も増えます。空冷だけでは限界が近づき、液冷(液体で冷やす)の比率が上がりやすくなります。
- なぜ詰まりやすい?冷却は配管・ポンプ・熱交換など“設備工事”の側面が強く、サプライチェーンが広いからです。
- 投資家のチェックポイント:液冷採用率のトレンド、冷却機器メーカーの受注動向、データセンター事業者の設計変更(空冷→液冷)の言及。
- 見落としがちな反証:熱密度を分散する設計や標準化が進むと、コストや供給制約が緩む可能性があります。
用語メモ:CDU(冷却水循環装置)は、液冷システムで冷却水を回す中核装置のことです。
3)メモリ(HBM/DRAM)
結論:性能だけでなく“コストの主役”になりやすいのがメモリです。
AI用途ではHBM(広帯域メモリ)が注目されますが、HBMの増産が進むと、製造リソース配分の影響で一般DRAM側の需給がタイトになり、価格上昇圧力がかかる局面もあります。
- なぜ詰まりやすい?メモリはサイクル(好不況の波)が強く、需給の振れで価格が動きやすいからです。
- 投資家のチェックポイント:契約価格・スポット価格、在庫水準、各社の供給見通し、サーバー向け構成比。
- 見落としがちな反証:メモリは増産と需要鈍化で反転しやすく、ピークの見極めが難しい点に注意が必要です。
用語メモ:HBMは「GPUのすぐそばに積層して高速に動くメモリ」です。
4)ネットワーク(光インターコネクト)
結論:計算が速くなるほど、通信が遅いと全体が詰まります。
AIクラスターは大量のGPUをつなぎ、データを高速にやり取りします。伝送速度が上がると、銅線ケーブルでは距離制約が厳しくなり、光(光ファイバー/光モジュール)へのシフトが進みやすくなります。
- なぜ詰まりやすい?高帯域・低遅延を満たす部材(光トランシーバ等)の供給が追いつかない局面が出やすいからです。
- 投資家のチェックポイント:800G/1.6Tなど高速化の採用、光部材の受注・増産計画、データセンター内配線の設計変更。
- 見落としがちな反証:ネットワークはトポロジー最適化(つなぎ方の工夫)や圧縮で負荷を減らす余地もあります。
用語メモ:インターコネクトは「機器同士をつなぐ接続・配線」の総称です。
関連銘柄マップ(テーマ別の“例”)
ここから先は銘柄名が出ますが、あくまで「どのテーマに属するか」を把握するための例示です。短期の値動きだけで飛びつくのではなく、需給・受注・利益率・設備投資の流れを確認してください。
ストレージ(足元で注目されやすい領域)
- SanDisk(SNDK):フラッシュ/SSD領域
- Western Digital(WDC):大容量HDD領域
- Seagate(STX):HDD領域
電力・送電網(長納期になりやすい領域)
- 日立製作所(6501):送電網・変圧器関連
- 三菱電機(6503):配電・スイッチギア関連
- Eaton(ETN):電力管理・配電関連
- GE Vernova(GEV):発電・送電関連
- 東光高岳(6617):変圧器関連
冷却(液冷シフトの恩恵が出やすい領域)
- ニデック(6594):液冷CDUなど
- Vertiv(VRT):データセンター熱管理
- 富士通(6702):液冷・システム技術
メモリ(価格サイクルの主役になりやすい領域)
- Micron(MU):DRAM/HBM
- SK hynix(000660):HBM(参考)
- 東京エレクトロン(8035):半導体製造装置
- アドバンテスト(6857):半導体テスター
ネットワーク(光シフト)
- 古河電工(5801):光ファイバー/ケーブル
- フジクラ(5803):高密度ケーブル
初心者でもできる:毎月の監視チェックリスト
ボトルネック投資は「何が足りないか」を追うゲームです。次の4点を“毎月”チェックすると、テーマの鮮度を見失いにくくなります。
- ハイパースケーラーの設備投資(Capex)計画:増額か減速か、どこに投資が向いているか。
- 電力・冷却の納期と受注残:重電・冷却メーカーの決算コメント、受注残の増減。
- メモリ価格と在庫:価格上昇が続くのか、在庫が積み上がっていないか。
- ネットワークの高速化トレンド:800G/1.6Tなどの採用状況、光部材の供給逼迫の有無。
注意点:ボトルネック投資の落とし穴
- テーマ先行でバリュエーションが先に膨らむ:業績より先に株価が走る局面があります。
- サイクルが強い(特にメモリ):需給が少し崩れるだけで価格と利益が急変します。
- 設備投資の遅れは一気に逆風にもなる:建設延期や受電遅延で“期待の前提”が崩れることがあります。
- 顧客集中・地政学:特定顧客への依存、輸出規制や供給制約の影響は無視できません。
まとめ:AIインフラは「詰まり」が移動する
AIインフラは、GPUだけを見ていると全体像を取り逃しやすい領域です。ストレージが注目されたあとも、電力・冷却・メモリ・ネットワークといった“周辺の制約”が順番に主役になる可能性があります。
個人投資家の方ほど、「次に足りなくなりそうなもの」を冷静に点検し、短期の話題性と中期の需給・納期・受注残を切り分けて考えるのが有効です。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身のリスク許容度と目的に合わせて行ってください。


